元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 こほん、と聞こえたわざとらしい咳払い。ティアリーゼは完全に固まった。

「トト」

 今の今まで溺愛していた恋人を捕らえたまま、シュクルがその名を呼んでしまう。

 本当にトトだと思いたくなかったというのがティアリーゼの本心だった。幻聴でさえあれば、今のやり取りを見られていないだろうと思えたのに。

「報告は街での件か」

「はい。無事に対処が完了したことを伝えにまいりました」

「助かった。なにか問題は?」

「ありません。金鷹の魔王が手を尽くしてくださったようで」

「クゥクゥは優しいな」

「我々にとっては。……人間にとっては別かと思いますが」

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