元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 自らを守る兵を失ったエドワードはシュクルの目的に気付いて逃げようとするも、その周囲に向かって紅蓮の炎が放たれる。昼間かと錯覚するほどの眩さが哀れな人間の逃げ道を塞いだ。

 その光景を見て冷たいものを感じる。あの竜は、殺戮に酔っていても冷静さを完全に失っているわけではない。最も許されざる罪を犯した人間をすぐに殺さないだけの残酷な理性をまだ保っている。

 自身に深い絶望を与えたエドワードに対し、同じものを与えようとするその行為は、撫でられるのが好きで、尻尾をぱたぱた動かすシュクルのすることとは思えなかった。

 人が抗えるはずのない獣の顎が兄の身体を裂く前に、歩く速度を上げる。

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