元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 香ばしい甘い匂いが鼻孔をくすぐり、ひとくちで食べるなと言われても誘惑に勝つのが難しそうだった。

 しかし、ちょっとした仕草もしっかり見られている。

 ぱくりと食べてしまいたいのを必死に堪え、まずは小さく端だけをかじった。



「わああ、おいしい」

「ティアリーゼ様」

「……おいしいっていうのもだめなの?」

「いけません。そういうときは、同席した方に向かって微笑むだけで充分です」

「でも、それってたのしくないよ。おいしいってきもちは、いっしょに……わか、わか……」

「分かち合う、でしょうか」

「それ! わかちあうほうがいいっていいたかったの!」

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