元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「魔王を倒し、この地を人の手に取り戻す。初代タルツ王の特徴を最も色濃く継いだ私が」

(忘れるはずがない。今まで何度も何度も言い聞かせられてきたんだから)

 ティアリーゼは窓へと目を向けた。

 はめ込まれた分厚い硝子に映るのは、美しいと称される自身の姿。

 かつてレセントを治め、この地にタルツという国を興した王も、赤銅色の髪と翡翠色の瞳を持っていたらしい。ティアリーゼの父も母も、そしてただひとりの兄もこの色を有していない。

 それが勇者の証である、と父は言う。

 が、ティアリーゼにはまだ信じられない思いがあった。髪と目の色だけでそんなに大それた存在になれるものなのか、と。

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