元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「喜んでいいと思うわ。褒めてるの」

「なるほど」

 ティアリーゼは同じ人間に騙され、供物として差し出された。

 その真意も、なぜ自分だったのかもまだわからないが、少なくとも彼らの思いは今のシュクルよりも美しくない。

「トトさん、あなたの王様はとても素敵な人ね」

「……人間に言われるまでもない」

「ティアリーゼ」

 そっぽを向いたトトの代わりにシュクルが甘い響きで名前を囁く。

 いつの間にかティアリーゼの手に尾が巻き付いていた。

 逃がさない、とでも言いたげに。

「私の子を産んでほし――」

「ごめんなさい」

「…………」

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