見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「記憶を無くして、どうして俺がこれを持っていたのか、本当に自分のものかすら思い出せないのに、絶対に手放しちゃいけない気がして、自宅のデスクの引き出しの奥にしまっておいたんだ」
和哉さんが私の左手を掴み、真剣な声音を響かせる。
「結衣、結婚しよう」
「和哉さん」
一気に頬が熱くなっていく。胸が高鳴って、気持ちも舞い上がる。
……なのに、和哉さんのお母さんの顔が脳裏を掠め、視線がゆっくり落ちていく。
「嬉しい。とっても嬉しい……けど、あなたと結婚して良いのか、分からない」
リングケースの蓋を閉じて、和哉さんの前に置いてから、私は彼と改めて向き合った。
「正直に思ってることを言ってしまうけど。……和哉さんの両親は、私との結婚を良く思ってない。三年前、和哉さんのお母さんが嘘をついたのも、私にあなたのそばにいて欲しくなかったからでしょ? 歓迎されなさすぎるのは悲しいから」
歯痒そうにしている和哉さんへと小さく笑いかけると、彼はしゅんと肩を落とす。
「結衣はもう俺のことは、何とも想っていない?」
「そうじゃないの。……あなたのことは、今でも好き。このまま傍にいられたらとても嬉しい。けど……」