見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
私は立ち止まり、回れ右をする。覚悟を決めて、和哉さんの前まで戻り、そっと傘を差し出した。
「何やってるんですか。風邪引きますよ」
声をかけると、ゆっくりと彼の視線が上昇する。自分の頭上に広がる透明の傘に目を大きくした後、不思議そうに私を見た。
「……お気遣いありがとうございます。俺は大丈夫です。あなたが濡れてしまいますから」
軽く頭を下げた後、彼は傘を持つ私の手をそっと押し返してきた。
言葉遣いも他人行儀。私との思い出をすべて消去し、綺麗さっぱり忘れてしまったかのような態度に、思わず鼻で笑ってしまった。
キョトンとした顔をした彼に対して怒りが湧き上がり、気持ちのままにじろりと睨みつける。
「そうですか。余計なお世話だったみたいです。それじゃあ、さようなら」
偶然でも、もう一生彼とは会いたくない。
一分でも一秒でもはやく、この場から離れたくて足取り荒く歩き出したが、十歩も進まずに後ろから腕を引っ張られた。
驚き振り返ると、必死な様子の和哉さんが私の腕を掴んでいた。
「なんですか」
「す、すみません。突然、変なこと聞きますが、俺たち知り合い、……ですよね?」