見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「は?」
「あなたが俺の知り合いのような気がしてしまって、つい。俺のこと知ってますか?」
私はからかわれているのだろうか。だとしたらなんて悪質だと、力いっぱい彼の手を振り払う。
「和哉さんのことなんて、もうとっくの昔に忘れました! これで満足?」
感情の荒ぶりを抑えきれないままに喚き散らす。
込み上げてくる思いはたくさんあるのに、それ以上はうまく言葉に変えられず、もどかしさをため息に変える。
「本当に、さようなら」
再び彼に背を向けて、逃げるように歩き出したけれど、聞こえてしまった声に……やっぱり足が止まってしまった。
「……結、衣……」
うめくように彼が私の名前を呼んだ。
振り返っちゃ、ダメ。昔みたいに、彼と気持ちを通わせることはできないのだから、このまま彼を振り切って立ち去るべき。
……わかっているのに、前に進めない。久しぶりに聞いた私の名前を呼ぶ彼の声に、目から涙がこぼれ落ちた。
気がつくと、振り返っていた。
見つめ合えば、まるで確認しているかのように彼がもう一度呟く。
「結衣」
「和哉さん」