見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
彼は無表情で、そうかと思えば時折とても苦しそうに顔を歪める。
仕事で何かあったのだろうかと、思わず心配になってしまうほど。
不意に、和哉さんの目が私を捕らえる。
声をかけるチャンスなのに、彼の虚な眼差しに私は言葉を失う。
思考までも停止して三秒後、彼は気怠げに己の足元へと視線を落とした。
しっかりと目は合っていたはず。私だとわかったはずなのに、まるで赤の他人かのように、目を逸らされてしまった。
謝罪のひと言くらいあっても良いのに、無視されてしまいムッとする。
そんな態度でくるならこっちも無視してあげるわよと心の中で怒りの雄叫びを上げた。
私は足を止めずに、そのまま和哉さんの前を通り過ぎた。
もう知らない。ここまで冷たい人だと、どうして付き合っている間に気付けなかったのか、悔しくて仕方がない。
腹が立つ……けど、通り過ぎる瞬間、横目で見てしまった彼の様子が頭から離れない。
雨でさらされたスーツはしっとりと冷たげで、髪も頬もひどく濡れていた。
今にも凍えそうに、まるで泣いているかのような面持ちの和哉さんに、勇哉の悲しそうな顔が重なってしまえば、これ以上の知らないふりなど出来なかった。