まだ、青く。
『あの』


潮風が止むのと同時に私と志島くんも口を開いた。

人とハモったのはこれが初めてだった。


「先どうぞ」


志島くんが遠慮して私に発言権を与えてくれた。

私はぺこりと頭を下げ、小刻みに震える左手首をねじりながら話し出した。


「あ、あのっ!」

「何?」


街灯の下に立っているから志島くんの表情が良く見える。

さっきは見えなかったものが見える。

鼻の先、

唇の形、

あごのライン...

そのどれもが美しい。

ずんぐりむっくりのリスみたいな顔の私とは大違い。

凛々しい鷲のようだと思った。


「夏目さん?」

「あ、す、すす、すみません」


見とれていたなんて言えず、また俯きそうになったけど、ここは耐えた。

ちゃんと言おう。

伝えよう。

今の自分の気持ち。

なんとなくだけど、

分かるから。

人と人との交流を見て覚えた言葉じゃなくて

自分の胸で生まれた言葉が

疼いているから。


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