まだ、青く。
「あっ、この辺で大丈夫です」


その一言でキーッとブレーキがかかった。


「学校、目と鼻の先なんだな」

「はい。なので少しくらい寝坊しても大丈夫なんです。なんて、自慢にならないですね。すみません...」


謝りながら腕を離し、私は荷台から降りた。

それにしてもあの坂をこんな重い荷物を乗せてひゅんひゅんと登って来れたなんてスゴすぎる。

この薄い体のどこにそんなエネルギーが蓄えられているのだろう。

そんなことを思ってじーっと眺めてしまった。

そして数秒後ハッと我に返り、

私は恥ずかしさのあまり咄嗟に俯いた。


「じゃあ、俺はこれで...」

「あっ、ちょっと待ってください!」


私は自転車を方向転換させた志島くんの真横に駆け寄った。


「ヘルメット被ったままでした」

「あ、そっか。気づかなかった」


私はヘルメットを志島くんに手渡しながら言った。


「今日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう」


その後の言葉が思い浮かばず、潮風に吹かれた。

今なら感じる。

昔から潮風は私の肌の細胞同士の隙間に入り込み、痛みとなって現れる。

じりじりと炎天下のアスファルトのように焦がされた気分になるんだ。

そんな痛みと悪い気持ちを一瞬だけだったけど、志島くんは忘れさせてくれた。

その代わり、私に別の温かくて形のないものをくれた。

それがすごく、すごくすごく嬉しかった。

胸が張り裂けそうだった。


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