蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
「……あの事件があったのは20年以上前、僕がまだ小学生だった頃の事なんです。」
一度キッチンへと向かって柚瑠木さんが持ってきてくれたのはホットミルク。そのカップを私に手渡しながら、柚瑠木さんはその当時を思い出すように話を始めました。
匡介さんは交換条件として、彼の知っている事件について教えてくれました。ですが詳しい話は柚瑠木さんから話してくれるまで待ちたいからと、匡介さんの話の途中で私はあの場所へと向かったんです。
「僕はその頃、きちんと学校に通うことが出来ていなかった。そんなある日、僕の事を心配した父と母が遠縁の若い女性を僕の家庭教師として連れて来たんです。」
「その女性が……ますみさん、ですか?」
その名前を私が知っている事に柚瑠木さんは少し驚いた顔をしましたが、彼は静かに頷きました。これからどんな話を聞くことになるのかと、私は緊張で胸が苦しくて……
「……真澄さんは都内の大学生を卒業すると同時に、僕の家庭教師を引き受け二階堂の家へと来てくれたそうです。性格は元気で明るく、彼女がいるだけで前向きな気持ちになれる。そんな太陽みたいな女性でした。」
柚瑠木さんが真澄さんの良い所を話す度、私はチクリチクリと胸に何かが刺さるような気がしました。私と正反対の魅力を持ち、柚瑠木さんの心を縛り続ける彼女に嫉妬してしまったのです。