政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

理由がなければキスできない。子作りのルーティンの中でとか、ファーストキスにあやかって仲直りをするときなど、決まったタイミングがある。

本当は、無理やりするのは簡単だ。

だが、今の俺には、しかたなく受け入れる素振りをする桃香を見るのは精神的に厳しい。

こんなことになるとは思っていなかった。なにもかも、俺は既成事実だけを積み上げて今の関係まで持ってきてしまっている。

桃香を初めて抱いた日、俺は素肌の触れ合いだけで満たされた。気持ちが通わないまま進む関係にこんなにも苦しめられるなど、想像していなかったのだ。

そうだ、たしか、あの日も、こんな季節だったか──。


──高校二年になったばかりの、五月。

東帝大付属高校には行儀の良いお坊ちゃんばかりがエスカレーターで進学してきたはずなのに、この頃になるとやけに大人びた、否、下品な話題を持ち込む面々が増えてきた。

「なあ、夏樹。姫とエッチするとき、どんな感じ? やっぱり喘ぎ声もかわいい?」

盛りのついたサルみたいに、そんなことばかり聞いてくる。
俺の桃香を使って勝手に妄想するな、そう罵りたい気持ちを押さえ、

「悪いな。そういう話には乗れないんだ。桃香と俺の秘密にしないと、ご両親に面目が立たない」

と、嘘でも真実でもない返答をする。
実のところは見たことがないから、俺も知らないのだ。
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