死にたがりな君と、恋をはじめる



……あれ、まだ痛みがまだ来ない。






どうしてだろう、私は確かに飛び降りたはず。


屋上って、こんなに高かったっけ……。





そういえば、もう風を感じない。





うっすらと目を開く、と。






『あ、起きた。大丈夫?』


「……え?」




黒い瞳が至近距離で、私の顔を覗き込んでいた。



思わず目を大きく見開く。







え?


だってここ……え?






透明な床に横たわる私の横では、

これまたまるで見えない床でもあるみたいに、


悠々と顔立ちの整った男の子が立っている。






黒髪をなびかせて、黒曜石のような印象的な黒い瞳でこちらを見るその美少年は、


夜に溶けてしまいそうなほど、儚く見えた。




黒い瞳には星が鮮明に映り込んでいて、瞬くたびにきらきらと輝く。






「え、ちょ。あなたなんでっ」



私が慌てて起き上がろうとするとその子は無表情のまま指をくいっと動かした。




「きゃっ⁉」





次の瞬間ぐいっと下から押し上げられる感覚があって、


気が付けば私は屋上に戻っていた。






呆然とする間もなく飛び起きて、バッと自分の心臓を押さえる。




それはいつもと変わらない様子でドクドクと音を立てていて、はぁっと息を吐く。






生きてる……私、生きてる?






どうして……私、確かに飛び降りて、


……今日こそ、死ねると思ったのに……。





乱れた髪はそのままに、心臓を押さえたまま座り込む。






『無事でよかったね』






続いて、ゆっくりと上がってきたその子を見つめる。





そんな様子の私はお構いなしに、男の子はそう言った。







「よ、……くない。なんで……」






死にたかったのに、死にたいと思って飛び降りたのにっ……。







でも、心のどこかで生きていて安心している私もいて、

そんな自分を認められなくて。





そんな矛盾した気持ちで、ぐちゃぐちゃだ。





「な、何、したの……?」






わなわなと震えながら指差すと、その子はパチパチと目を瞬かせた後、





フッと余裕のある笑みを浮かべて一言。






『人に指を差したらダメだよ』

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