【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 たとえば、庭園に行く予定で動きやすいデイドレスで来たら、急に歌劇が見たくなったと劇場の箱席に行くような場合、令嬢は場所に合わせて着替える必要がある。
 もしも、場にそぐわない服装で行けば、マリアの評価だけでなくジステッド公爵家の評判にひびく。
 着替えるために屋敷に帰って、アルフレッドを待たせるのも避けたい。

 ゆえに屋敷を出る際には、三通りほどのドレスと靴、アクセサリーを馬車に積み、着替えを手伝う侍女も必ず連れていくようにしていた。
 こうした公爵令嬢としての矜恃が、マリアの完璧さを下から支えているのである。

「使い回しのドレスしかない皆さまは、お茶会のあいだに着替える発想はなさそうですわね。お転婆もけっこうですけれど、もう学生ではないのですから、足下くらいきちんとご覧なさいませ」

 マリアが悠々と反論すると、男爵令嬢は顔を真っ赤にして震えた。取り巻きはというと、自分たちは悪くないという顔で彼女と距離をとる。

 従者を連れて控え室へ下がっていくマリアを、離れたテーブルで令嬢に囲まれているプリシラが心配そうな顔で見ていた。


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