【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 マリアの心は、アルフレッドに婚約破棄されて泣き喚いた卒業パーティーの日から、紆余曲折を経て成長したのだ。
 そうでもなければ、毎日泣き暮らしていただろう。
 みっともなく声をあげて、幼子のように涙を流すことは、レイノルドを本当に失ってしまう日までない。

「あなたのおかげで、わたくしはまた少し強くなれた。感謝しておりますが、聖女も預言も大嫌いになりました。レイノルド様とわたくしを引き裂こうとするものは、どんな相手でも地獄を見ることになりますわ。ごきげんよう、ネリネ様。クレロ様との新婚生活を楽しんでくださいませ」

 ニコリと笑って、マリアは踵を返した。
 ネリネを捕獲するために走ってきた騎士たちは、すれ違う麗しいジステッド公爵令嬢に見蕩れ、はっとして仕事に戻る。
 彼女の姿に目を奪われたのは、会場に集まった貴族も同様だ。

 華やかに着飾った紳士淑女がどれだけ群れようと、マリアはそこにいるだけで主役になる。気高く美しいジステッド公爵令嬢の前では、彼らは背景に過ぎない。
 魔法の絵の具で描かれなくても、キラキラとまばゆい輝きを放つ〝高嶺の花に敵う者はタスティリヤ王国にはいなかった。

 堂々たる足どりで壇の下に戻ったマリアは、待ち構えていたレイノルドと並び、会場に向かってたおやかに一礼した。

「お待たせいたしました。婚約披露パーティーの続きをいたしましょう」



< 282 / 446 >

この作品をシェア

pagetop