【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 彼女を認識した途端、レイノルドの胸の内側から熱い衝動がわき上がった。

 真冬の寒い日に、やけどするとわかっていても燃えさかる暖炉の火に手を近づけてしまうように、危ないと知っていても体が求めてしまう。

 マリアヴェーラと関わってやけどですめば御の字だ。
 タスティリヤ王国で栄華を誇ってきたジステッド公爵家の、絢爛たる歴史を物語るような美貌の令嬢は、毒花のように生物を虜にして死に至らしめるだろう。

(捕らわれたら最後。それがわかっていて、どうして俺は――)
 
 気づけばレイノルドは階段を駆け下りていた。
 なぜ走っているのか。自分でも理由がわからない。

 マリアヴェーラは、生まれた時からの双子の兄の婚約者。
 兄との婚約が破棄されて以降は、レイノルドと縁のないその他大勢の貴族令嬢の一人でしかない。それなのに。

(あんたが欲しい)

 そう気づいたら、その思いで頭がいっぱいになる。

 猛烈な枯渇。レイノルドは、熱い砂漠をさまよう人のように乾いていた。
 必要なのは水ではない。
 柔らかく、温かく、涙が出るような愛にも似た何か。

 一階に下りたレイノルドは、明後日の方向をきょろきょろ見回しているマリアヴェーラに一直線で近づいていくと、白い腕に手を伸ばした。

(逃がすか)
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