【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

18話 ふたりきり幕間恋慕

 レイノルドに見つかる少し前、マリアは一階の座席の中でも、舞台が見きれると人気のない端の席についていた。

 ジステッド家の令嬢が座るような席ではないため、周りの人々は落ち着かない様子だ。
 せっかく地味な黒一色のドレスに、スズランのブローチという質素な服装でやってきたのに、目立って困ってしまう。

 シンプルなコーディネートの方が、元来の美貌を引き立てるのだということに、マリアは気付いていなかった。

 ちらちらした雑多な視線は受け流すことにして、マリアは後ろを振り返った。
 王族が利用する中央の特別ボックス席に、レイノルドとルクレツィアの姿がある。

(ヘンリー様の情報通りだわ)

 二人が観劇をすると教えてくれたのは彼だ。
 自分の記憶が改竄されたと気づいた彼は、同じ状態にあるレイノルドのスケジュールをマリアに伝える役目を果たしていた。

 王族の外出には護衛がつくものだがルクレツィア側が拒否している。
 レイノルドも強く出られず、いつもヘンリーは建物の中にまで入れないという。

(迷惑な公女様だわ)

 マリアは双眼鏡を掲げて、舞台そっちのけで彼らを観察した。
 ルクレツィアとレイノルドの距離がやけに近いのが気に障ったが、奥歯を噛みしめてぐっとこらえていると、幕間にレイノルドが一人で席を出た。

 マリアも席を立って座席を抜け、足早にロビーへ出る。

 姿を現したマリアに、たむろしていた人々がいっせいに振り向いた。
 豪華なシャンデリアに照らされたマリアの美貌は、芳香を放つ薔薇の花のように周囲の視線を奪った。

(こんなに目立ったらレイノルド様を見つけても、こっそり見守れないわ)

 マリアは女性にしては長身なので、立って歩くとそれだけで悪目立ちするのだ。
 加えて〝高嶺の花〟に例えられるこの容姿である。

 どこかに身を隠した方がよさそうだ。
 階段の影か、それともカウンター横の女神の像の後ろか……。

 辺りをきょろきょろ見回していたら、突然に腕を引かれた。

「きゃっ!?」
< 352 / 389 >

この作品をシェア

pagetop