【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
第4部 王宮騒乱編
プロローグ 本当ははじまり
春の陽気に包まれた祝祭日。
正タスティリヤ国教会の大聖堂から宮殿へ続く大通りには、たくさんの市民が詰めかけた。
国旗を振り、花びらを撒き、歓喜の声を上げる彼らの視線は、大通りの中央を走る馬車に向けられている。
タスティリヤ王国の紋章がついた黄金の馬車に乗っているのは、麗しき第二王子と晴れて花嫁となった美貌の公爵令嬢――。
「レイノルド王太子殿下、マリアヴェーラ王太子妃殿下、バンザイ!」
「ご結婚おめでとうございます!」
幸せそうな表情で手を振り返す二人に、群衆は熱狂する。
人混みのなかで、ただ一人だけ冷めた目をした女性がいた。
白の混じった金髪は見事で、着ているデイドレスも上等だ。
腕には、仕立てのよい子ども服を着た、白銀の髪の男の子を抱き上げている。
「……なぜ、あそこにいるのが私ではないの……」
純白のウェディングドレスを着た王太子妃を見る瞳は暗く、表情は嫉妬で張りつめていた。
自ずと、子どもを抱く腕に力が入る。
男の子は、サファイヤのように青い瞳を痛そうに細めた。
「おかあしゃま」
けれど、彼女は気づかない。
身の内で沸き上がる黒い情念が、周囲の喧騒も、我が子の訴えも、何もかもを意識から遠ざけている。
「絶対に取り戻してやる……」
つぶやく彼女に、酒のカップを手に持って騒いでいた若者がぶつかる。
こぼれた酒が女性のドレスにかかった。
「うわ、すまない!」
「…………」
女性は、若者をギロリと睨んで踵を返した。
抱かれた男の子は、群衆に隠れて見えなくなるまで、若者をもの憂げに見つめていた。
「なんか気味悪いな」
若者はそう言って、カップに残っていた酒を飲んだ。
そして、喜びに沸く集団に戻ろうとしたが――。
「うっ」
ドクンと鼓動が脈打った。
胸を押さえて倒れた若者に、周囲の人々が悲鳴を上げる。
「大丈夫か!? 誰か、医者を!」
呼びかけに、人々は助けを呼びに走ったり、水を持って駆けつける。
しかし、懸命な救命にもかかわらず、若者は助からなかった。
パレードの最中のこの事件は、慶事の喜びにかき消され、当の王太子夫妻のところへは届かなかった。
――これが、本当のはじまりだったのに。
正タスティリヤ国教会の大聖堂から宮殿へ続く大通りには、たくさんの市民が詰めかけた。
国旗を振り、花びらを撒き、歓喜の声を上げる彼らの視線は、大通りの中央を走る馬車に向けられている。
タスティリヤ王国の紋章がついた黄金の馬車に乗っているのは、麗しき第二王子と晴れて花嫁となった美貌の公爵令嬢――。
「レイノルド王太子殿下、マリアヴェーラ王太子妃殿下、バンザイ!」
「ご結婚おめでとうございます!」
幸せそうな表情で手を振り返す二人に、群衆は熱狂する。
人混みのなかで、ただ一人だけ冷めた目をした女性がいた。
白の混じった金髪は見事で、着ているデイドレスも上等だ。
腕には、仕立てのよい子ども服を着た、白銀の髪の男の子を抱き上げている。
「……なぜ、あそこにいるのが私ではないの……」
純白のウェディングドレスを着た王太子妃を見る瞳は暗く、表情は嫉妬で張りつめていた。
自ずと、子どもを抱く腕に力が入る。
男の子は、サファイヤのように青い瞳を痛そうに細めた。
「おかあしゃま」
けれど、彼女は気づかない。
身の内で沸き上がる黒い情念が、周囲の喧騒も、我が子の訴えも、何もかもを意識から遠ざけている。
「絶対に取り戻してやる……」
つぶやく彼女に、酒のカップを手に持って騒いでいた若者がぶつかる。
こぼれた酒が女性のドレスにかかった。
「うわ、すまない!」
「…………」
女性は、若者をギロリと睨んで踵を返した。
抱かれた男の子は、群衆に隠れて見えなくなるまで、若者をもの憂げに見つめていた。
「なんか気味悪いな」
若者はそう言って、カップに残っていた酒を飲んだ。
そして、喜びに沸く集団に戻ろうとしたが――。
「うっ」
ドクンと鼓動が脈打った。
胸を押さえて倒れた若者に、周囲の人々が悲鳴を上げる。
「大丈夫か!? 誰か、医者を!」
呼びかけに、人々は助けを呼びに走ったり、水を持って駆けつける。
しかし、懸命な救命にもかかわらず、若者は助からなかった。
パレードの最中のこの事件は、慶事の喜びにかき消され、当の王太子夫妻のところへは届かなかった。
――これが、本当のはじまりだったのに。