【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 第二王子を運ぶには質素な馬車にのせられたマリアは、人生で一度も来たことのない下町で、スカーフを被らされて人目をはばかるように降車した。
 マリアをエスコートするレイノルドは、閉鎖されたアートホールの裏手に回って、地下へとつづく階段を下りる。

「閉鎖されてしばらく経っているようですが、ここにどんなご用事ですの?」
「…………」

 視線でマリアを黙らせたレイノルドは、ペンキの剥げた戸を、三回、七回、二回と独特な調子でノックする。すると、内側から戸が開いた。

 戸を押えるのは、鍛えられた肉体にスーツと蝶ネクタイを身につけた、見るからに柄の悪そうな男だ。

「ひっ」

 息を呑むマリアとレイノルドの顔を見ると、男は薄暗い廊下へと招き入れる。

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