7歳の侯爵夫人
「何をしてるんだ、ノントン子爵夫人」
俺の冷たい言い方に、セリーヌが僅かに怯む。
だがすぐに思い直したように俺との間を詰めると、こう言い放った。
「私、あなたに手紙を書いたの!でもきっと邪魔されてあなたに届いていなかったのでしょう⁈」

なるほど。
俺が彼女に返事をしなかったのは、俺に手紙が届いていなかったせいだと言うのか。
たしかに義母のせいで手紙は届いていなかったが、例え目にしていたところで、俺は無視していたことだろう。

「それで、何しに来た?」
「だから!直接会いに来たのよ!私やっぱりあなたを忘れられない!あなただってそうでしょう⁈」
「君はバカか?私はもう結婚している」
「それは、政略結婚でしょう?可哀想なオレリアン。私と別れて、結婚なんてどうでもよくなってしまったのでしょう?」

俺は、絶句した。
あまりにも驚き過ぎると、人は、思考が停止するらしい。
俺がかつて愛した女性は、ここまで愚かで自分勝手な女だったのか。

「人伝に、あなたが不幸な結婚生活を送っていると聞いたわ。私も同じ。あなたとの思い出が美し過ぎて、夫になんて、触れられるのも嫌なの。私たちきっと、間違えてしまったんだわ。ねぇ、お願い、オレリアン。私たち、やり直しましょう!」

思わず絶句してセリーヌに語らせてしまったが、これ以上彼女の気持ち悪い陶酔話を聞くわけにはいかない。

「何馬鹿なことを言ってるんだ。すぐにここを立ち去れ。これ以上君の話を聞く気はない」
俺はそう言い捨て、セリーヌに背を向けた。
しかし、馬車に戻ろうとする俺の腕をセリーヌが掴む。
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