7歳の侯爵夫人
「コニー!」
邸の方から、オレリアンが手を振って駆けてくる。
「旦那様!」
コンスタンスも夫の姿を見とめると駆け寄った。
抱きついてきた妻を満面の笑みで抱き上げる夫は、本当に愛おしくて仕方がないと言うような顔をする。

「あんな顔されちゃ、やっぱりしょうがないわよねぇ」
残されたリアは、1人ポツリと呟いた。

オレリアンは愛馬に妻を乗せると、その後ろに自分も跨った。
領内をゆっくり歩いていると、農作業中の人や遊び回っている子供たちが手を振ってくる。
2人はそんな領民たちに笑顔で手を振り返し、道行く人に挨拶しながら森の方へ入って行った。

樹々の間から溢れる光を浴び、オレリアンの金色の髪が輝く。
コンスタンスがそんな夫を眩しそうに見上げると、彼は目尻を下げ、
「どうしたの?」
と優しく聞いてくる。
コンスタンスはにっこり笑ってこう言った。
「旦那様、綺麗」

金の髪も蒼い目も綺麗だし、妻を抱えながら馬を操る姿はとても凛々しいと思う。

一方『綺麗』と言われたオレリアンは目を丸くして、でもすぐにニカッと笑った。
「何を言うんだろうね、この子は。私なんかより、貴女の方がよっぽど綺麗だろう?」
「ううん。旦那様の方が綺麗だわ」
コンスタンスは小さく首を横に振って、夫の胸にそっと寄り添った。

夫の鼓動の音が、とくんとくんと聞こえる。
今朝目覚めた時も彼女は夫の腕の中で、この音を聞いていた。

(すごく、安心する…)
オレリアンの腕の中はとても居心地がいい。
きっと記憶がなくなる前も、こうして自分は夫に寄り添っていたに違いない…。
コンスタンスはそう信じ込んでいた。
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