7歳の侯爵夫人

9

ヒース領での残りの日々を惜しむように、オレリアンは妻との時間を大切にした。
相変わらず毎日のように視察込みのデートに誘い、離れて仕事をすれば飛んで帰って来る。
邸の中でも外でも楽しそうに戯れる2人の姿は、周りの者にまで幸せを分け与えているかのようであった。

そうして、瞬く間に2ヶ月近くの時が流れ、2人がヒース領で暮らす日も、残りわずかとなった。

今日もオレリアンが急いで帰って来ると、コンスタンスは庭でカナヘビを観察していた。
貴族のお嬢様なのに、コンスタンスはちっとも虫や爬虫類を怖がらない。

「コニー」
「ひゃあ!」
突然声をかけられて驚いたコンスタンスは尻餅をつきそうになる。
夢中で地面を見ていたせいで、夫が後ろから忍び寄っても気づかなかったらしい。

「おっと」
オレリアンは咄嗟に妻を支え、そのまま軽々と抱き上げた。
「私のお姫様は何をそんなに夢中で見てたのかな?」

「おかえりなさい!オレール!」
「ああ、ただいま、コニー」
首に腕を回して笑顔で見上げる妻に、オレリアンも笑顔で応える。

「カナヘビを捕まえようとしたらね、尻尾を切って逃げるのよ?」
「ハハ…、なかなか残酷な遊びをしてたんだね」
「遊びじゃないわ。お勉強よ。それにすぐに尻尾は生えるわ」
コンスタンスは自分の手のひらに乗せたカナヘビの尻尾を見せた。
切れたばかりの尻尾はまだ動いている。

「うーん、なかなか悪趣味だね。尻尾はすぐには生えないから追い込まないであげようね」
「すぐには生えないの?それは、可哀想なことをしたわ」
コンスタンスはシュンとなって、尻尾を見つめた。

彼女はとても好奇心が旺盛だ。
昨日は飽きずにずっと蟻の行列を眺めていたし、一昨日は庭に遊びに来たリスを追いかけていた。
色々なことに興味を示すのはいいが、自分と2人だけの時は自分だけを見て欲しい…などと、オレリアンは思うのだが。
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