7歳の侯爵夫人
「俺だって、戻りたくないよ。だから、また一緒に来よう、コニー」
オレリアンはそう言って妻の髪を撫でた。
いつものように優しい目でコンスタンスを見つめている。

「ホントに?また連れてきてくれる?」
「ああ、もちろん」
「約束よ」
コンスタンスは夫の首に抱きついた。
オレリアンが、そっと妻の体を抱きしめる。

いつもならこの後おでこにキスをして、寝る態勢に持っていく夫が、コンスタンスを抱きしめたままジッとしている。
でもその抱きしめる腕の強さは、だんだん強くなっていくようだ。
不思議に思ったコンスタンスが彼の腕の中から見上げると、オレリアンは今まで見たことがないほど、不安げに瞳を揺らしていた。

「オレール…、どうしたの?」
コンスタンスにたずねられ、オレリアンは苦笑する。
王都に戻るのが嫌なのは、不安に思っているのは、本当は自分の方なのだと。
王都に戻れば、嫌でもコンスタンスは世間に晒される。
刺激が多ければ多いほど、記憶が戻る可能性も高まるだろう。

本当は、誰の目にも晒したくない。
このまま自分の腕の中だけで、大事に大事に守っていってやりたいのに…。

だからと言って、このまま彼女を領や邸に閉じ込めておいていい道理はない。
彼女の実家にも2ヶ月と約束したし、元々それを言い出したのは自分だ。
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