7歳の侯爵夫人
「ちょうど…、良いのではありませんか?」

エリアスの言葉に、オレリアンが顔を向ける。
エリアスは一瞬彼と目を合わせた後、両親の方に目をやった。

「コニーの記憶からは辛かった時期がすっぽり抜けている。私たちはコニーを公爵邸に連れ帰り、慈しみ、また家族の愛で包んでやればいい。7歳から、やり直せばいいのです」

「ああ…、そうか…。そうだな…」
顔を上げた公爵の目にはすでに希望の色が現れている。

「そうね、そうよ…。コニーを連れ帰りましょう」
公爵夫人も顔を上げ、明るい声でそう言った。

そもそも3人はコンスタンスが目覚めたら連れ帰るつもりで来たのだ。
記憶が欠落してはいるが、体に怪我がないのは不幸中の幸いであった。
7歳の幼女ならそれらしく、家族で守り、慈しめばいいではないか。

「それならば早速支度を…」
「お待ちください」
立ち上がりかけた公爵夫人を止めたのは、オレリアンだ。
オレリアンを無視して決められていくコンスタンスの処遇を、夫として黙って見ているわけにはいかない。

「コンスタンスは私の妻です。私が…」
彼女の世話をしたい、という言葉はエリアスの
「書類上のだろう?」
という言葉に遮られた。

「しかし…!」
「オレリアン」
公爵の低い声が応接間に響く。
オレリアンは言葉を切り、息を飲んだ。

公爵夫妻もエリアスも、オレリアンとコンスタンスの仲が冷え切っていたことは知っている。
結婚して1年以上経つが、妻を領地に置き去りにして、彼自身はほとんど王都のこの侯爵邸で暮らしているということも。

「今ここで君を責める気は無い。この結婚は、君だって被害者だったのだから。だが…、この邸には、君の義母である前伯爵夫人もいるだろう?この家ではコニーは…、いや、君の側では、コニーはゆっくり休めない」

公爵の言葉に、オレリアンは項垂れた。
この邸では彼女が養生できないと言われてしまっては、返す言葉がない。
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