7歳の侯爵夫人
コンスタンスに移動の許可が医師からおりるまで、彼女の世話は母親と侍女がつきっきりで行った。
その間、コンスタンスが混乱するからと、オレリアンは彼女に会わせてもらえなかった。

当然、今や彼はコンスタンスにとって見知らぬ赤の他人である。
7歳以降の記憶がないコンスタンスは、オレリアンと結婚したことも、侯爵夫人として暮らしていたことも忘れているのだから。

「いや、記憶があったとしても、赤の他人以下か…」
オレリアンは自嘲気味に笑った。

数日後、馬車に乗せられて去って行く妻を、オレリアンは少し離れたところから見送った。
馬車に乗りかけた妻はオレリアンに気づき、小さく会釈した。
そして、動き出した馬車から振り返り、見送るオレリアンに小さく手を振った。
驚いたオレリアンも僅かに右手を挙げる。

遠去かり、見えなくなっても、オレリアンは馬車の去った後にただ呆然と立ち尽くしていた。
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