7歳の侯爵夫人

3

「そなたを責めるつもりはない。そなたにとっても気に染まぬ結婚を強いたのはこちらなのだから」
フィリップはそう言うと、少しばつが悪そうな目でオレリアンを見下ろした。

「私は、コンスタンス嬢との婚約解消が決まってからその後のことは、全て母上に任せきりであった。不本意ではあるが見方によっては彼女を捨てた私が、中途半端に関わるべきではないと思っていたのだ。だから、彼女の新しい婚約者であるそなたのことも、結婚した後のことも、なるべく耳に入らないようにしていた。知ってしまったら、気になって仕方がないとも思ったからだ。勝手な話だが、私は彼女に幸せでいて欲しかった。幸せだと、思い込みたかったんだ。だが、5ヶ月前にコンスタンス嬢が事故に遭ったと聞いた時、目の前が真っ暗になった。すぐに駆けつけ、この目で無事を確かめたかった。その後軽い怪我で済んだと聞いて安堵したが、それを機に、そなたの過去、結婚後の彼女の暮らしぶりを調べさせたのだ」

そこまで言って一息つくと、フィリップは今度は射抜くような強い眼差しでオレリアンを睨みつけた。

「そなたは1年もの長きに渡り妻の存在を無視し、捨て置いたそうだな。先日ヒース侯爵家よりそなたの義母を追い出すためのサインを求められたが、実質ヒース侯爵家の女主人は侯爵夫人ではなく、その義母だったとも聞いている。たしかに、2人に不幸な結婚を強いたうえ、私は何も知ろうとしなかった。だから…、コニーが不幸な結婚生活を送っているなら、それは私の罪だ」

またフィリップはコンスタンスを『コニー』と呼んだ。
でももうオレリアンは、それを正す気は起きなかった。
王太子はまだ、コンスタンスに未練があるのだ。
それも、有り余るほどの。
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