7歳の侯爵夫人

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「私には王太子殿下との婚約解消も、侯爵様との結婚も記憶にこざいません。父に話を聞き、この2ヶ月間、実家に引きこもって泣いてばかりいました。でも、このままでは家族にも、そして侯爵様にも迷惑ばかりかけていると、ようやく思い至りました。おそらく社交界では侯爵様との別居も面白おかしく噂されていることでしょう」
「社交界での噂など、どうでもいい」
オレリアンは憮然と言い放った。

「ええ、侯爵様は噂などお気になさらない方なのでしょう。貴方はきっと、とても誠実な方です。私のようなキズモノの令嬢を娶ってくださったのですから。しかも記憶を失って厄介者になった私を見捨てず、大事にしていただいたともお聞きしています」
「それなら、何故試すようなことを?」
「貴方の本心を、貴方のお口からお聞きしたかったのです。私は今の自分の立ち位置を理解してから、これからのことを考えました。
本当は、私みたいな面倒な女から、貴方を解放して差し上げられればいいのでしょう。でも貴方との別居が噂になっている上離縁などしたら、余計に醜聞になってしまいます。出戻ってこれ以上実家に迷惑をかけるのも、貴方を醜聞に巻き込むのも、私は嫌なのです。それから、一時は婚約までしていた殿下に、側妃に望まれたということも私には衝撃でした。私は側妃になどなりたくありません。でも私は何の力もなく、結局は実家や貴方の力を借りなくては生きていけないのです。侯爵様…、貴方は貴方を夫として覚えていないような、こんな狡くて厄介な女を、お側においてくださるのですか?」
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