7歳の侯爵夫人

12

2日間、オレリアンはコンスタンスのベッドの傍らに椅子を置き、そこでずっと過ごした。
ずっと彼女の手を握り、頬を撫で、話しかけた。
エリアスたちが交代して横になるようにと言っても、オレリアンは断固として妻の側を離れなかった。

そして3日目の朝、オレリアンに握られているコンスタンスの右手の指が、微かに動いた。
「コニー?」
コンスタンスの目が、薄っすらと開かれる。
「コニー?ああ、気がついたんだね?」
オレリアンが妻の顔を覗きこむ。
コンスタンスはゆっくりとそちらに目を向け、オレリアンをその瞳に映した。

「良かった…。コニー、本当に良かった…」
オレリアンは両手でコンスタンスの右手を握り、その甲に自分の頬を寄せた。
「オレリアン…、様…?」
コンスタンスはオレリアンを見つめ、弱々しくも、はっきりとその名前を呼んだ。
たちまちオレリアンの瞳が喜びに見開かれる。

「コニー!俺がわかるんだね?」
それだけ言うと、胸がいっぱいで言葉が出ない。
目には熱いものが込み上げてきて、オレリアンはみっともないと思いながらも流れ出る涙を止められない。

侍医に、薬の副作用があるかもしれないと聞いた時から、覚悟はしていた。
すでに2回も夫としての存在を忘れられていたオレリアンは、またそういうことがあるかもしれないと。
だからたとえコンスタンスが自分の存在を忘れていても、どんな彼女でも、何歳の彼女でも、受け入れるつもりでいた。

でも、彼女はオレリアンを覚えていた。
彼女が自分の名前を口にした時、どうしようもなく嬉しかった。
自分の存在を認識してくれていたことが、途轍もなく嬉しかったのだ。
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