7歳の侯爵夫人
自由のきかない手足と、火照る体。
私は恐れました。
今フィリップ殿下が現れて私に触れたりしたら、私は抗えないのではないのかと。

なんとか正気を保とうとする私の頭に浮かぶのは、オレリアン様の優しい笑顔でした。
私がこのまま殿下の妾になったりしたら、あの方はどんな顔をされるのでしょうか。
王命によって娶った妻をまた王家の勝手で奪われるなど、騎士としての彼の矜持も、どんなに傷つけられることでしょう。
そんなこと、絶対にあってはなりません。

私はペーパーナイフを自分の手首に当てました。
決して、自害しようと思ったわけではありません。
とにかく、正気を保たなくてはと思ったのです。
そうすれば、フィリップ殿下も私に触れようなどとはお思いにならないでしょう。
それに、そうして時間を稼げば、きっとあの方が助けに来てくれるような気がしたのです。

薄れゆく意識の中、私はオレリアン様に抱き上げられました。
そして彼の温かい胸に抱かれ、ようやく安堵いたしました。
彼は『貴女の騎士だ』と言ったことを、守ってくださったのです。
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