7歳の侯爵夫人
私は、思い出しました。
事故に遭う直前、私は彼に離縁を申し出ていたことを。

7歳の私を彼が慈しんでくださったのは、私が何も知らない少女のようだったからです。
そう、長年この身に叩き込まれたお妃教育も何もかも忘れて、ただの少女に戻ってしまっていたから。
彼が愛してくれたのは、何も知らない、自由に跳ね回っていた頃の私だったのです。

また、16歳の私に『お付き合いから始めよう』と言ってくださったのは、彼の、事故に遭った私に対する贖罪の気持ちからです。
彼の恋人を庇って、事故に遭ったから。

19歳の私は、彼に拒絶されていました。
それもそのはずです。
私はオレリアン様とセリーヌ様の仲を引き裂く邪魔な存在でしかなかったのですから。

そう、今の私では、彼に絶対に愛されないのです。
ああ、なんて残酷な運命なのでしょう。
記憶が戻った途端、そんな現実を思い知るだなんて。

いっそ、記憶なんて戻らなかったら良かったのに。
そう、あの、7歳の時の私のままでー。

でも、これは現実なのです。
私はヒース侯爵夫人として、現実を受け入れなくてはならない。
私はこの方を、セリーヌ様に返して差し上げなくてはならないのです。

だって彼には、幸せになって欲しいから。
たとえその隣が私の居場所じゃなくても、彼にはずっと笑っていて欲しいから。
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