7歳の侯爵夫人
「……痛っ…」
オレリアンは妻の手を握る自分の手に力が入っていることに気づいた。
「…!……すまない…」
手の力を緩めると、妻の右手首は薄っすら赤くなっている。
左手は自傷行為で包帯が巻かれ、右手は夫に強く握られたせいで赤い痕がついた。
オレリアンはその手を見ると、頭を抱えて嗚咽を漏らした。
大事にしたいのに…、傷つけたくないのに…、何故こんなに伝わらないのだろう。
その姿にコンスタンスは絶句し、どうしたらいいのかと手を彷徨わせる。

オレリアンは妻の顔を見ずにすっくと立ち上がった。
今、猛烈に恥ずかしかった。
近衛騎士ともあろうものが、妻に切々と恋情を吐露し、それが伝わらないからといって泣き出すなんて。

妻にこれ以上みっともない姿を晒すのも、彼女を責めるのも嫌だ。
だから、少し離れて冷静になろうと思ったのだ。

隣室にはコンスタンスの母も休んでいるし、侍女も控えている。
コンスタンスが目覚めるのを今か今かと待ち焦がれている彼女たちにも、早く伝えてやらなければならない。

「俺は、貴女が嫌がっても絶対に離縁はしない」
妻の顔を見ぬままそれだけ告げると、背を向け、部屋の出口に向かって歩き出した。

だがその背中に、微かな声が投げかけられた。

「……で、……ル」
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