7歳の侯爵夫人
「旦那様、今日も来るかしら」
目を輝かせてそう話す主人に、リアは冷たい目を向ける。

「いけませんよお嬢様。旦那様より、お嬢様とヒース侯爵様を絶対会わせないようにと、きつく言いつかっておりますから」
リアの言う旦那様とは、もちろんルーデル公爵のことだ。

「私が旦那様に会うと、リアが叱られてしまうの?」
悲しげに眉尻を下げる主人に、リアはため息をついた。

「そういう問題ではありません、お嬢様。記憶のないお嬢様にとって、侯爵様は赤の他人でございましょう?旦那様はお嬢様が見知らぬ男性と接して傷ついたりしないようにと守っておいでなのですよ」
「傷つく…?どうしてお父様は私が旦那様と会うと傷つくと思うのかしら。だって旦那様はとっても優しい方だわ?」
キョトンと首を傾げるコンスタンスに、リアはさらに深いため息をつく。

「どうして記憶のないお嬢様に侯爵様がお優しいとわかるのです?」
「そんなのわかるわよ。だって目がとっても優しいもの」
コンスタンスは先日庭で遭遇したオレリアンの蒼い瞳を思い出していた。
深い湖のような蒼い目は澄んでいて、優しくコンスタンスを見つめていた。
あの目でまた見つめられたい…、そう思ったら、ドキドキして、頬が火照るのを感じた。

この気持ちは、幼馴染のフィリップに対するものとは違う種類のものだ。
たしかにフィリップのことは好きだけれど、このドキドキは…。

(私多分、旦那様に恋してるんだわ)
知らず知らず口元を緩める主人を、リアは呆れたように…、そして困ったように眺めていた。
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