7歳の侯爵夫人
しかし公爵の心配をよそに、オレリアンは静かに首を横に振った。
「王都の西に邸を借りました。義母はそこに住まわせます」
「…隠居させるということか?あの女が、大人しく従うのか?」
「今の当主は私です。必ず従わせます」

オレリアンは表情を引き締め、力強く公爵を見つめた。
だが公爵はスッと目を逸らし、娘の方へ目を向けた。

コンスタンスは心配そうに父と夫を交互に見つめている。
父はそんな娘を見てフッと表情を緩めると、
「コニーはやらない…。コニーを見守るのは父である私の務めだ…」
と呟いた。
「義父上、それは、」
「コニーは楽しいはずの少女時代をお妃教育に費やし、その挙句、見知らぬ男に嫁がされ、そして、その男に傷つけられた。この子が7歳以降の記憶を失くしたのは神が与えてくれた時間なのだと思う。きっと神が、少女時代からやり直すようにと、あの子に時間をくださったのだ。そのやり直しの時間に、そなたは必要ない」

公爵のキッパリとした物言いに、オレリアンは唇を噛んだ。
たしかに、幼い少女でしかないコンスタンスに、夫など必要無いのだ。

だがそこで突然、それまで黙って聞いていたコンスタンスが立ち上がった。
「お父様!私、旦那様の領地に行きたいわ!」

そう言って。
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