7歳の侯爵夫人
公爵は腕を組み、目を閉じた。
たしかにこの先ずっとコンスタンスを邸に閉じ込めて自由を奪うわけにはいかない。
それでは、娘の幸せを願う親として本末転倒な話だ。
このまま全く社交界に顔を出さず引きこもっているとなれば、どんな噂を立てられるか知れたものではない。

だが外に出れば、突然少女のようになってしまったコンスタンスが奇異な目で見られるのは確実だろう。

また、オレリアンと離縁するにしても、王太子との婚約解消から時をおかずにヒース侯爵と結婚し、そして瞬く間に離縁となれば、世間でどんな風に言われることか。
間違いなくコンスタンスを傷つけるものであることは、想像に難く無い。

黙ってしまった公爵の代わりに、兄のエリアスが口を開いた。
「父上…、私も絶対にコニーをヒース侯爵に返すべきではないと思っていましたが…」
エリアスの言葉に、皆が彼の方を向く。
エリアスは苦しげに眉をひそめ、父と妹の顔を交互に見た。

「記憶をなくして今や幼い少女同然になってしまったコニーを外の世界から遮断し、一生公爵領に囲っておくのは簡単です。でも、果たしてそれは本当にコニーにとって幸せなのでしょうか?元々コニーは最高の淑女としての教育を施され、未来の王妃として、また、社交界の華として、国王の隣に立つ女性として育てられました。残念ながらそれは幻に終わってしまいましたが、だからと言って、そのような女性を、私たち家族だけの中に閉じ込めてしまってもいいのでしょうか。記憶は失っても、コニーはすでにもう19歳の立派な女性です。閉じ込めていては、コニーの女性としての幸せまで奪ってしまうような気がします」
「何もずっと閉じ込めておくつもりはない。記憶が戻ったら私だって…」
「では記憶がずっと戻らなかったら?戻ったとしても、20年後、30年後だったら?」
「それは…」

「コニーが出たいと言っている。それなら、私はそれが今なのではないかと思います」
そうキッパリ言い放つと、エリアスはオレリアンの方に体を向けた。
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