7歳の侯爵夫人
わかっていることだが、この縁談は彼女にとっても相当不本意なことだっただろう。
幼い頃からたった1人の男性を見つめ、彼の妻になるためだけに、未来の王妃になるためだけに、努力し続けてきたのだから。

あっという間の破局劇に、その後すぐ充てがわれたのは下位貴族出身の、一介の騎士でしかなかった男。
辻褄合わせに侯爵に格上げしたり領地を与えたりしても、それは所詮張りぼてだ。
彼女からすれば、そんな爵位や持参金目当ての結婚だと、俺を蔑む気持ちだってあるだろう。

だが、彼女の目に俺を嫌悪する気持ちや軽蔑の色は伺えない。
感情を表に出さないことも、10年近く培ってきたお妃教育による賜物なのか。

やはり、人形のようだなー。
俺はこの人形のようなお姫様を、これから一体どう扱っていけばいいと言うのか。

だがー。
俺自身、この美しい公爵令嬢と結婚出来ると喜び勇んで来たわけではない。
どうせ断れない縁談だし、正直もう自分の結婚なんてどうでもよかった。
裏切られたと言っては語弊があるかもしれないが、手痛い失恋をした俺は、この先女に恋することも、信じることも出来る気がしない。
だったら、お互い全く興味がない同士、ちょうど良いではないか。
籍さえ入れれば後は、お互い無関心、不干渉を貫けばいい。
どうせもう、あたたかい結婚生活など望むべくもないのだから。

だから多分、そんな気持ちが、つい口に出てしまったのだろう。
「貴女も不本意でしょうが…、貴女がこの先穏やかに暮らせるよう、力を尽くすつもりです」
そんな言葉を、彼女に向かって吐いていた。

彼女は一瞬だけ僅かに目を見開いたが、
「あたたかいお言葉とご配慮に感謝致します」
と言って微かに口角を上げた。

あの時多分、俺は言葉を間違えたんだろう。
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