7歳の侯爵夫人
「今日は疲れたでしょう?私はそちらのソファで眠りますから、どうぞゆっくりお休みください」
それだけ言うと、俺は彼女に背を向けた。

「え?あの…!」
彼女の戸惑ったような声が聞こえる。

「さすがにすぐに出て行くわけにはいきませんから。どうか、朝まで隣室にいることはお許しください」
この言葉を言った時、彼女はどんな顔をしていたのだろう。
俺はそれを確かめることもなく、足早に寝室を出た。

寝室の隣は居間になっていて、ソファセットが置いてある。
俺はソファにどかっと腰をおろすと、そのまますぐに横になった。

朝まで彼女の部屋にいれば、初夜は滞りなく済んだと思われるだろう。
これで、彼女も使用人たちに面目が立つだろう。
愚かにも、俺はそんな風にしか考えなかった。

俺には、心の中で全く別の男を想っている女を抱く趣味はない。
いつもすました貴婦人を組み敷きたいとか、貼り付けた微笑が乱れるところを見たいとか、あいにくそんな変態じみた趣味嗜好もない。
ただ王命に従い、望まぬ相手に嫁がされた哀れな女が穏やかに暮らせればいい…、そんなことを考えていたのだ。
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