許されるなら一度だけ恋を…
「蒼志君には言っておこうと思って……俺と桜、付き合い始めたんでよろしく」

「はぁ?」

蒼志は視線を私に移し、本当か?と言わんばかりに目で訴えてくる。迫力ある目つきに私は一瞬ビクッとなったけど、コクンとしっかり頷いた。

本気(マジ)かよ。つうかさ、一時の感情に身を任せて付き合い始めていいのか、桜。一年以内に婿養子をとらなきゃいけないんだろ?どうすんだよ」

「そ、それは」

痛い所を突かれて私は言葉を失い、そのまま俯いた。分かってるけど……

「それは何とかするわ。でもこれだけは言っとく。一時的な付き合いじゃないし俺にはこの先桜と別れる選択肢はない。華月流の跡継ぎ問題もきちんと考える」

俯いてしまった私の肩を抱き寄せ、奏多さんは私の代わりに蒼志に言った。

「奏多さん、本当はそんな口調なんすね。意外だけど何か親近感が湧くわ。じゃあお手並み拝見といきますか……後でやっぱり無理でしたって言って、桜を不幸にしたら承知しねぇからな」

ちょうどその時、呉服店にお客様が来店し、蒼志にお前らは早く帰れと店を追い出された。

今度は水族館に向けて車を走らせる中、私は奏多さんに話しかける。

「どうして蒼志に言ったんですか?」

「蒼志君には言わなあかんやろ。桜にプロポーズしたわけやし。まぁ一発殴られるくらいの覚悟はしてたけど、蒼志君が冷静な奴で良かったわ」

奏多さんは運転しながら安堵の表情を見せた。
< 110 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop