もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
「魔力を取り戻した王子をご存じないのですか?」
「え? その、凄まじい魔力みたいでしたね。無事、魔力が戻られて、良かったと……」
「そうでした。マリー様を助けに向かわれて、幻覚魔法まで使われたのですから、目の当たりにされておりましたね。だいたいわたくしが到着する数分も待っていられないのですから、本当に困ったものです」
あの場を離れるのはマリーもどうかと思ったが、魔力が戻った点については無条件に喜んでいるとばかり思っていた。
しかし、イーサンはため息をつく。
「傍若無人ぶりに拍車がかかったと言うべきでしょうか、まあ説き伏せても無駄とはわかっていましたが」
目を細め、その眼差しはマリーに向けられる。
え? なに、その表情。私、哀れられていない⁉︎
「十数年、諦めなかったのですから、無理もありませんね」
十数年?
マリーはなんのことだかわからずにいると、イーサンは話を切り上げてしまう。
「では、今晩の夕食時に」
それは、丁重にお断り申し上げます!
声を大にして言いたい言葉は、口から出る前に扉が閉じられていた。もちろんマリーだけを部屋に残して。
「どうしてこう、みんなして勝手に話を決めてしまうのよ」
こぼれた愚痴は、誰もいない部屋にただ漂うだけだった。