もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

 来た道を引き返す途中、数名の使用人たちとすれ違う。彼らが押す台車には割れた壺が乗せられていて、申し訳ない気持ちになりつつマリーは先を急いだ。

 扉の前で何度か深呼吸してから、いつノックしようかと耳をそばだてて中の様子を伺う。

 すると聞こえてきたのは、思いもよらない言葉。

「震えていたぞ。可哀想じゃないか」

 えっ。この声は、エリック様じゃ。

 あまりの衝撃に扉に体を寄せる。

「殿下は甘いのですよ。ちょうどいい弱みを握れたのですから、畳み掛ければよろしいものを」

 優しそうだと思っていたイーサンの鬼畜な意見に身震いをする。

 それよりもなによりも、さきほどの発言は本当にエリックなのだろうかと、未だ信じられない。

 深いため息のあと、ぼやくような声がする。

「いつまで"冷酷王子"を演じていればいいのだ」

 演じている⁉︎

 思わず息を飲むと、「シッ」という短い声のあと静かになってしまった。
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