もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

 まだなにか聞こえないかと、体を扉へ更に近づけたところで扉が開く。

「えっ? ひゃあ」

 突然のことにマリーは支えを失い、よろめいて無様な姿で部屋へと転がった。

「なにをなされているのです?」

 恐ろしい形相のイーサンを見上げ、「ひっ」と悲鳴を上げる。

「すっ、すすすすみません」

 上擦った声で謝ってみても、許されそうにない。

「もういいではないか。怯えているぞ」

 助け船を出してくれるのは、まさかのエリック王子。
 冷酷で血も涙もない、人嫌いだと言われている王子はもうそこにはいない。

「しかし、殿下……」

 困惑しているのは、イーサンよりもマリーの方だ。状況が飲み込めずに、頭から煙を出しそうな顔をして床に倒れ込んだまま固まっている。

 エリックは悠然とした所作で、マリーに歩み寄る。

「マリアには、何重にも秘密を知られてしまった。これでは、余計にきみを自由にしてあげられないな」

 優しげな笑みを浮かべながら、手を差し伸べられる。

 ん? あれ?
 物腰はすごく柔らかくなったけど、腹黒さがプラスされてない⁉︎

 差し出された手に応じていいのか躊躇していると、強引に手を掴まれ立ち上がらせられる。

 そこでマリーは、おずおずと自分の気持ちを伝える。
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