もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「当時、行方不明になっていたエリック様がお戻りになり、『俺の番が死んでしまったぁ』と泣きじゃくられたときは大変困惑いたしました」

 そのときの王子は口元に血を滴らせたまま、しゃくり上げ、ただただ泣いていた。

 なにもかもを与えられて育ち、どこか大人びた可愛げのない子どもだと思っていた王子の取り乱した様子は、長らく傍に仕えていたイーサンも初めて見る姿だった。

 記憶を頼りに少女が倒れているであろう場所まで探しに行ったが誰もおらず、詳しい話を聞こうにも何日も熱を出して聞けなくなってしまった。

 ようやく話が出来る頃にはそこだけぽっかり記憶が抜け落ちていて、魔力も失っていた。

「そんなこと、今まで話してくれなかったではないか」

 不満げに言うと、イーサンはもっともらしい理由を口にする。

「記憶を失われたエリック様に話したところで、負担になるだけですので」

 飄々としているイーサンに苦い顔をするが、気持ちを切り替え宣言する。

「魔力もそのうち取り戻す。いや、もしも取り戻せずとも、王子としての務めは怠らない」

 決意を新たに、力強い眼差しをイーサンに向ける。
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