秘密の一夜で、俺様御曹司の身ごもり妻になりました
 それを見てイラッとしたが、すぐに医師に視線を戻した。
「歳は?」
「二十九歳です」
「今日は何日ですか?」
「三月十一日です」
 神崎さんにも聞かれたが同じように答えると、その医師はちょっと考えるような仕草をした。
 この反応……。私の答えは間違ってるの?
 そんな不安を抱いたが、まだ質問は続く。
「事故に遭った時の記憶はありますか?」
「いいえ」
 正直言って事故に遭ったと言われても実感がない。
 どういう状況で車が迫ってきたとか全然思い出せないのだ。
 まるで他人事のように思える。
「では、そちらの右側の男性はどなたかわかりますか?」
 医師が兄に顔を向ける。
「私の兄です」
 くだらない質問と思いつつも、真顔で答えたら次に医師は神崎さんを見やった。
「では、左側にいる男性の方は?」
「兄の親友の神崎さんです」
 間を置かずに答えるも、微妙な空気が流れてちょっと動揺した。
 いつも王子さまのようににこやかな神崎さんは額に手を当てて暗い顔をしているし、兄も腕を組んで私をジッと見据えている。
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