推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)
 
 そんな私の思いをよそに、彼女はゆっくりとした口調で話し始めた。

「そう、ユウヒのことよ。あなたの話はあの子からも聞いているわ。とても大切な存在だって。でもね、あなたたち別れなさい」

 彼女の口から発せられたのは、まるで陳腐なドラマのセリフみたいだった。

私は思わず笑ってしまった。

「別れなさいって、なにをおっしゃるんですかか?」

「言葉の通りよ。あの子はこれからもっと伸びるわ。あなたみたいな素人が傍にいたらいけないことくらいわかるでしょ?」

「分かりません。雄飛はこのことを知ってますか? 私たちはお互いを必要としています」

「それは結構なことね。疋田、例のものを」

 三田さんは隣にいる男性にそう指示を出す。

すると疋田さんはアタッシュケースを開いて中から封筒を取り出した。

「これ、なんですか?」

「手切れ金よ。五百万入っています」

「お金で別れさせようっていうんですか? 私は応じません」

「あらそう。じゃあ、ユウヒには事務所を辞めてもらうしかないわね。

とても残念だけど、虫のついてるタレントはあたしの事務所にいらないの。マネジメントの妨げになるから」

「雄飛を辞めさせる?」

 三田さんの言葉に私は驚いた。

私と付き合っているという理由で雄飛をクビにするなんて、本当にそんなことをするのだろうか。

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