推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)

 その日、なぜか時間になっても送迎のバスが到着しなかった。

5分、10分、15分が過ぎ、園に電話をかけようとスマホを手に取った時、着信があった。園からだった。運転手の男性が急病で入院してしまい、しばらくの間は送迎バスが出ないという。

「……どうしようか、朝飛」

 園まで自転車で15分。走れる距離だが客を残して店を開けるわけにもいかない。朝の時間は稼ぎ時で臨時休業にはしたくない。しかも明日からしばらくの間……。考えあぐねていると、白いハイエースが目の前に停まった。

「おう、お前ら。こんな雨の中なにしてんの?」

 コウ君だ。私は簡単に事情を説明する。すると、

「じゃあ、俺が送っていってやるよ」

 そう言って、運転席から降りてくる。

「丘の上にあるくじら保育園だろう?」

「そうだけど、でも申し訳ないよ。この子が迷惑かけるかもしれないよ。騒いだり、泣き出したり、とか……」

「大丈夫だって。な、朝飛。俺と保育園行けるよな?」

「うん!」

「だとよ。じゃあ、決まりな」

 コウ君は言いながら朝飛を抱き上げた。

「でも……」

「いいから。店、空けられないんだろ?」

「うん、そうなの。……ごめん、やっぱりお願いします……」
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