推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)
 申し訳なさそうに頭を下げる。

するとコウ君は朝飛を助手席に乗せた。その横顔がいつもより大人びて見えて、私の心配は煙のように消えてなくなった。

「安全運転で行ってくるからな!」

「いってらっしゃい。朝飛の事、よろしくお願いします」

 コウ君はニカっと白い歯をのぞかせて笑うと、車に乗り込みあっという間に走って行ってしまった。

「いっちゃった」

 車が見えなくなると、慌てて店へ戻り閉店までの間一生懸命に働いた。

閉店時間になり店の片づけを終えた私は、レインコートを着込み外へ出て店のわきに停めてある自転車のカバーを外した。

朝よりも雨足は弱くなっているのは不幸中の幸いか。店の入り口にカギをかけて自転車にまたがった。

海沿いの道を走行していると、海風は容赦なく私を煽る。雨具のフードはとっくの昔に脱げてしまい、濡れた髪が視界を遮った。

「ああ、もう。これじゃ前が見えない」

 片手で髪をかき上げたその時、バランスを崩してしまった。必死で態勢を整えようと思ったがそれもかなわず、私の体は冷たいコンクリートの上に落下した。

強い衝撃のあと、しばらく息ができなかった。下になった右腕には鈍い痛みが走っている。

「いった、……い」

 立ち上がらなきゃ。そう思うのに反して、体は言うことを聞いてくれない。

「お迎えに行かなきゃいけないのに……朝飛」

 もしこのまま死んだりしたら朝飛はどうなってしまうのだろう。痛くて怖くて情けなくて、泣けてくる。

 どれくらいそうしたいただろう。もしかしたら数分にも満たない時間だったかもしれない。

 パシャパシャと水を蹴りながら駆け寄ってくる足音が聞こえ、すぐそばで止まった。

「大丈夫ですか?」

 男性の声だった。その人は私を抱き起し、はっと息をのむ大が聞こえる。

「まひる!」

「……え?」

 声にならない声をあげ、私はその人の顔をまじまじと見た。雄飛だった。

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