推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)

「ちょっと。本当にここしかなかったの?」

 不機嫌そうな声をあげる。細身のパンツスーツを身にまとい、まとめ上げられた黒髪にシャネルのサングラスをかけた女性。

私はとっさに帽子を深くかぶりなおす。

「だから都内に戻りましょうって言ったのよ。あたしはこんな店で食べたくないわ」

「み、三田さん。声抑えてください」
 
彼女は慌ててその女性に駆け寄るがお構いなしだ。

三田志津香はそういう人間なのだと私は知っている。
 
 モデルとして名を馳せて、実業家と結婚して引退。離婚後に芸能事務所を立ち上げ、多くの有名タレントを輩出中。現在四十九歳。

でもこの人がどうしてここにいるのだろう。

 そこまで考えてドクンと心臓が波打った。

彼が女直々にマネジメントしているタレントは二人。

女優の白根万喜とモデルで俳優のユウヒ。

「いい店じゃないですか、志津香さん。俺、腹減って死にそうだからここで食べましょ」

 穏やかな声でそう言って店の入り口に立つ三田さんの肩をたたいたのはユウヒだ。

帽子を目深にかぶりサングラスをしていてもその人と分かる。

それくらい私は、ユウヒのファンだった。
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