推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)
 こんな裏切りがあってなるものか。俺は家族で幸せになるために仕事を増やして必死で働いている。

それなのに、俺が忙しく飛び回っている間にあいつは……。

「……なんでだよ」

「どうかしました?」

「ああ、いや。なんでもない。それで、ホテルにはもう一泊できる?」

 すると間髪入れずに答えが返ってくる。

「はい。撮影が延びたことも考えて押さえてあるので大丈夫です。ですが、明日は東京で雑誌の取材がありますので翌朝七時台の便には乗っていただきます」

 新しいマネージャーは二十代の女性でよく気が利く。秋山なんかよりも数倍。

「芦田さんて、前職はなにしてたの?」

「はい、秘書をしておりました」

「へえ、秘書ね」

 なるほどね。スケジュール管理はお手の物ってわけだ。でも、真面目すぎて息が詰まる。裏切られても秋山の方がよかったともうなんてどうかしてる。

 ホテルの部屋に入ると、俺はそのままベッドに突っ伏した。ジャケットのポケットの中でスマホが何度もなったが、出る気にはならなかった。きっとまひるだ。

「……まひる」

 この写真の存在を知っているのだろうか。俺がこの写真を見たと知ったらどんな言い訳をするんだろう。聞きたくない。なにも考えたくない。

新曲のリリースに向けて、俺はやらなければならないことが山のようにあるんだ。

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