5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 入ってきた瞬間、私はそのお姉さんに目を奪われた。
 ローズピンクの長い髪をふわりと揺らし、真っ白の高価そうな生地のワンピースを身に纏っている。
 目鼻立ちがくっきりとしていて、誰が見ても美人と言うだろう。
 ぼーっと見惚れていると、そのお姉さんは、ゆっくりと私の方に近づいてきた。
「あなたがメイちゃん?」
 にこりと微笑むお姉さんが、私には女神に見えた。
「は、はいっ。そうですけど……どうして私のことを?」
「ふふ。だってあなた、この町じゃ有名人だもの。子供なのにいろんなことができて、なにより聖女としての能力値が高いって。現最強聖女として、次期候補をこの目で見ておこうと思ったの」
「……てことは、お姉さんも聖女なんですか!?」
 しかも、最強聖女って言っていた気がする。同じ職業である聖女と話すのは初めてのことで、心が昂ぶっていくのがわかった。
「ええ。私の名前はミランダ。よろしくね。小さな聖女さん」
 お姉さん――ミランダさんは屈んで目線を私に合わせ、ぱちりとウインクをしながらそう言った。
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
「噂通り礼儀正しいいい子ね。でも私にはもっと気楽に話してくれていいのよ」
「……いいの?」
「もちろん。そのかわり少しの間、私とお話ししてくれないかしら」
「ぜひ!」
 ミランダさんは私の隣に腰かける。
 こんなに綺麗な人と話せるなんて大歓迎だ。
 フレディが帰ってくるまで、私はミランダさんと談笑しながら親睦を深めることにした。
「こうやって話せてうれしいわ。私ね、ずっとあなたと話してみたかったの。その年齢で聖女の能力を開花したなんて前代未聞だもの。元々持っていた能力値が普通の人とは全然ちがうんでしょうね」
 目をキラキラと輝かせながら、ミランダさんは言う。
 たしかに聖女になる訓練をしたわけでもないし、気づいたときには魔法が使えた。これは、私が元から聖女としての才能があったということだろう。でも――。
「ミランダさんは最強聖女なんでしょう? それに比べたら全然私なんて……」
「そうねぇ。一応この国で今、最強聖女って周りからは言われてるし、役目も果たしてるわ。自分で〝最強〟だなんて名乗るのは、ちょっと気が引けるんだけどね」
 眉を下げ、困ったように笑うミランダさん。どんな表情をしても可愛くて、私が男だったら間違いなく今ので恋に落ちただろう。清楚な雰囲気や、品のある仕草を見ていると、ミランダさんに〝聖女〟という役職はぴったりだと思った。
 そのままミランダさんは、最強聖女の役目について教えてくれた。最後聖女というのはその名の通り、国で最も強い能力を持った聖女のことを指す。
 最強聖女は基本的に王都での生活をすることになり、王宮で日々祈りを捧げることで、国を災害などから守る役目があるらしい。ほかにも、祈りのおかげで王都にモンスターは侵入できないようになっているとか……。なるほど。だから祈りの効果が届かない町や村にモンスターが襲ってこないよう、ギルドが立ち上がっているのか。
 そしてこのあと、私はミランダさんの驚くべき過去を知ることとなった。
「えぇ!? ミランダさんがグレッグと!?」
 その話を聞いて、おもわず大きな声を上げてしまった。
 なんと、ミランダさんは最強聖女になる前、グレッグのパーティーに入っていたというのだ。そういえば、前まで聖女がパーティーにいたとか言っていたような。
「どうしてミランダさんみたいな女神があんなやつと……はっ!」
 心の声が漏れてしまい、焦って手で口を塞いだ。
 過去の仲間の悪口を言うのはよくないと思ったのだが、ミランダさんはけろっとした顔をしている。
「いいのよメイちゃん。私も、あの三人のやりかたに愛想を尽かしてパーティーから去ったの。マスターからちょっと聞いたけど、メイちゃんもひどいことをされたみたいね。過去の仲間として、私から一言謝らせてほしいわ。ごめんなさい」
「そんな! ミランダさんはひとつも関係ないし悪くもない! 私が本来の力を発揮できなかったせいでもあるの。……まだ、聖女の能力がちゃんと開花する前だったから」
「そうだったの。でも変ね。グレッグは強い人にしか興味を示さないの。メイちゃんに近づいたのにはなにか目的があったと睨んでるんだけど、なにか言ってなかった?」
 私はグレッグの言っていたことを、記憶を遡り頑張って思い出すことにした。
「……あ。そういえば。しんせいじょ? とかなんとか言ってたなぁ」
〝〟
 ミランダさんは私の目をじっと見つめ、納得したような顔をした。
「真聖女――百年に一度、神の加護を受けて生まれたと言われる稀少な存在。生まれながらにして凄まじい魔力を持ち、神からの授かりものと言われている。特徴は金色の瞳に、背中の星模様」
「えっ、えっ?」
 突然の説明口調についていけず、頭がこんがらがる。
「メイちゃんの瞳は、とても綺麗な金色ね。金色の瞳をした人はほかにもいるけど――こんな綺麗な色は、初めて見た」
 ぐっと顔を近づけられると、ミランダさんの髪からふわりと薔薇のようないい香りがした。とてもいい香りだ。きっと王宮の高級シャンプーを使っているんだろうなぁ。うらやましい――って、今は真聖女の話をしているんだった。
「グレッグは、メイちゃんを真聖女と思ったのかもしれないわね」
「まさか! 私がそんなすごい存在なわけ!」
 まだ真聖女のことをはっきり理解できていないが、とにかくすごい人なんだということは理解していた。
「一度自分の背中を確認してみるといいわ。そしたら答えがわかるんじゃない?」
「……着替えるとき鏡で見たことあるけど、星模様なんてなかった」
 大きなほくろがあった覚えしかない。どこからどう見てもただの黒い丸だったし、あれは星とはいえないだろう。
「あら。それは残念だわ。でも、メイちゃんがすごい聖女ってことにかわりはないけどね」
 ミランダさんとは逆に、私はほっとした。
 だって真聖女だったら、絶対将来は最強聖女として王宮行きになるもの。
 普通だったら王宮での暮らしなんて憧れるかもしれないけど、私はちがう。そうなったら村でのスローライフって夢が叶えられなくなってしまう。それは真聖女でなくとも、最強聖女になれば同じことだ。
 ……ミランダさんが最強聖女でいるうちに、なんとかして冒険者をやめないと。
「メイ! 待たせたな。帰るぞ」
 すると、休憩所にフレディが戻ってきた。
「お迎えがきたようね。メイちゃん、またお話ししてくれる?」
「もちろん!」
「ふふ。楽しみ。いつかメイちゃんの魔法を見てみたいわ。それに――あなたの剣術も」
 扉の近くに立っているフレディを見ながら、ミランダさんは言う。フレディはなにも答えずに、ふいっと目線を逸らした。
「それじゃあね」
 ひらひらと手を振って、ミランダさんは去って行った。
「……今の、聖女のミランダだな。どうしてメイに会いに?」
「なんか私と話したかったみたい! 美人だし、いろいろ教えてくれたし、とってもいい人だった!」
「まぁ、たしかに悪いやつではなさそうだけど。元はグレッグの仲間だからな」
 そこがやはり引っかかるのか、フレディはあまりミランダさんに好意的ではないみたい。美人すぎて照れているだけかもしれないけど。
 その後、フレディと商店街に寄ってから家に帰った。
 その日の夜、寝る前に改めて背中を確認してみると、やはり星模様は見られなかった。私は安心して眠りについたのだった。
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