5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
「きゃあああああっ!」
 大声で叫びながら落下すると、ぼふんっとクッションのような感覚に包まれた。
【大丈夫か? メイ】
「スモア~~!」
 スモアがクッションになり、私を落下の衝撃から守ってくれたのだ。
 死ぬかもしれないという恐怖と、助かった安堵で、私は半泣きになりながらスモアに抱き着いた。スモアはそんな私の目尻をぺろぺろと舐めてくれた。
 ほかのみんなも、うまく落下の衝撃を防げたみたい。ルカに至ってはカラスになって宙に浮いている。そして私の近くに飛んでくると、魔物化を解き人間の姿に戻った。
 ――も、もしかして、また裸なんじゃ!?
 そう思い目を塞ごうとしたが、ルカはきちんと、来た時と同じ服を着ていた。そういえば初めて会った時に〝最後に魔物化した時裸だったの忘れてた〟って言っていた気がする。魔物化する直前の格好に戻るようになっているようだ。よかった……。
「……みんなといると、心臓がいくつあっても足りないんだけど」
【本当にな】
 こればかりはルカの言う通りでぐうの音も出ない。スモアも全部巻き込まれ事故である。
「ごめんなさい」
 私とフレディとマレユスさんは、声を揃えてふたりに謝罪した。これからは動く前に、ルカの忠告を聞くことにしよう。
「……あれ。ねぇ、ここって出口はどこだろう?」
 もう連続で罠にかかるまいと決意を固めたところで、私はとあることに気づいた。
 落下先――つまり、私たちが今いる場所は、周りをぐるっと壁に囲まれていたのだ。
「うーん。なにか道が開く仕掛けがあるのかも。探すしかないね。でもあんた達に任せるの怖いから、一旦俺がひとりで調べる」
 ルカが誰かに頼まれていないのに、自分から動くことはめずらしい。こんなに続けて罠にかけられて、さすがのルカも周りに任せていられなくなったのだろう。
「おいルカ、あれはなんだ?」
 ひとり黙々と探索を続けるルカに、フレディが話しかけた。
「あれって……ただの壁じゃん」
「ちがう。よく見ろ。壁の上に文字書いてあるだろう」
 フレディが指さした先に視線をやると、なにもない壁の上に〝後悔の部屋〟と書いてあった。
「〝後悔の部屋〟ですか。あまりいい部屋とは思えませんね。それに……」
「マレユス、勝手に触っちゃだめだよ」
「安心なさいルカ。これは罠ではない。僕にはわかるんです」
 マレユスさんはそう言って壁に近づくと、そっと手を伸ばした。しかしその手は、なにかに跳ね返されてしまった。
「やっぱり。この壁、かなり強力な結界が張られていますね。触れることすらできません」
「結界? じゃあこの先に秘宝があるのかもな」
 今度はフレディが壁に歩み寄る。マレユスさんと同じように、フレディも壁に向かい手を伸ばすと――驚くことに、フレディは結界をなんなく越えていった。
「……え」
 フレディ自身も想定外だったようで困惑している。そしてあろうことか、フレディはそのまま壁の中に吸い込まれるように飲まれて行ってしまった。
「フレディ!?」
 あまりに唐突な出来事。私がいくら名前を呼んでも、壁からフレディの返事は聞こえてこない。
【まずいな。早く追いかけたほうがいい。この壁の向こうは嫌な臭いがする。最悪の場合、あいつは空間のひずみに取り込まれて戻って来られなくなるかもしれない】
「……フレディが戻って来れない?」
「メイ、どういうことですか」
「わかんないけど、スモアがそう言ってるの」
 スモアの悪い勘が当たっていたとしたら、この先にある〝後悔の部屋〟は空間のひずみにあって、フレディを閉じ込めようとしているってこと……?
「早くフレディを助けないと……!」
 そう思い立ち上がる。みんなも私と同じ気持ちのようで、なんとか壁の向こうへ行こうとするが、結界が邪魔して入ることができない。
 マレユスさんも、ルカも、スモアもみんな試した。だが全員、結界にはじき出されてしまった。
「次は私がやってみる」
 試していないのは、私だけになった。これでもし私がだめだったら、フレディを助ける術が遠ざかってしまう。
 緊張で額と手にびっしょりと汗をかきながら、私は壁に手を伸ばした。すると、するりと結界の向こう側まで手を伸ばすことができた。
「……できた! 私、このままフレディを追いかける!」
【メイ、待て! オレも一緒に行く! どんな時でもお前を守り、見守るのが従魔であるオレの役目だ!】
【スモア、でもっ……】
 スモアが私のもとへ来ようと、何度も壁に突進するが、そのたびにスモアの体は結界にはじき返されてしまう。
【スモア、大丈夫。私ひとりで行ってくるから、心配しないで! だけどもし私になにかあったら……その時は絶対助けに来てね!】
【……わかった。オレが必ず助けに行く。すまない。力不足で】
 スモアの悲痛の叫びが、私の頭に響き渡った。
「必ずフレディを連れて戻って来るから待ってて!」
「――メイ!」
 マレユスさんが私に向かって手を伸ばす。その後ろには、心配そうな顔をしてこちらを眺めるルカの姿もあった。マレユスさんの手が届くことはないまま、私の体は完全に壁の中へと取り込まれていった。
 
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